東京高等裁判所 平成元年(行コ)136号 判決 1991年6月26日
控訴人
ネッスル株式会社
右代表者代表取締役
エイ・エフ・オー・ヨスト
右訴訟代理人弁護士
青山周
被控訴人
中央労働委員会
右代表者会長
石川吉右衛門
右指定代理人
萩澤清彦
外三名
補助参加人
ネッスル日本労働組合
右代表者執行委員長
斉藤勝一
補助参加人
ネッスル日本労働組合霞ケ浦支部
右代表者執行委員長
岡沢清
右両名訴訟代理人弁護士
古川景一
同
岡村親宜
同
山田裕祥
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 中労委昭和五九年(不再)第六二号、第六三号及び第六四号事件について、被控訴人が昭和六一年三月一九日付けでした命令中、主文第1項ないし第3項及び第4項のうち控訴人の再審査申立を棄却した部分を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とし、参加によって生じた費用は第一、二審とも補助参加人らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
本件控訴を棄却する。
第二 当事者双方の事実の主張は、原判決事実摘示第二記載のとおりであり、証拠の関係は、本件記録中の証拠目録(原審)記載のとおりであるから、それぞれこれらを引用する。
理由
一当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がなく、棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決書一五枚目裏七行目の「が結成され」を「を結成し」と改め、同八行目の「ユニオン・ショップ協定」の次に「(なお、その具体的内容は、成立に争いがない乙第二五七号証によれば、「会社は従業員が組合に加入し、又その役員となる権利を確認する。原則として、会社の従業員は組合員とする。但し、組合に加入しない者、脱退した者、及び組合から除名された者の取扱は、会社及び組合の合同協議によるものとする。」というものであることが認められる。)」を加え、同一六枚目表三行目から四行目の「第二四八、第二五〇」を「第二四八」と、同五行目の「第四五三号証、」を「第四五三、第四六六号証」とそれぞれ改め、同七行目の「も認められる。)、」の次に「第一〇ないし第一二、第一四、第三三ないし第三六、」を加え、同八行目の「第五九」を「第六〇」と改め、同行の「第一一〇、」の次に「第一一一、」を加える。
2 原判決書一七枚目裏一〇行目冒頭の「役員」を削る。
3 原判決書二三枚目表末行の「第三三七号証、」を「第三三七、第四六六号証」と、同二四枚目裏末行の「ほか一七名」を「ら一七名」と改める。
4 原判決書二五枚目表七行目の「ネッスル日本労働組合」の次に「霞ケ浦支部」を加える。
5 原判決書二六枚目裏五行目の「乙第二二九及び」を「乙第三二、第一三〇、第二二九、第二五七、」と、同七行目の「第一六九ないし」を「第一七〇、」とそれぞれ改め、同二八枚目表一行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「(四) なお、前記改正後の参加人組合の規約七〇条の二1項では「団体交渉権は、本部、支部及び分会がもつ」とされ、新たに制定された参加人支部の規約四五条では、「支部は、組合規約にもとづき団体交渉権を有する。」とされている。また、旧組合と控訴人との間の労働協約一五条1は、「会社と組合との団体交渉は、会社の従業員である組合員の中から選任された組合代表者と会社代表者との間で、神戸本社に於いて行う。更に、一つの工場又は販売事務所だけに関係する事項についての交渉はその工場又は販売事務所の会社代表者と、組合支部代表者との間で行う。」とされている。」
6 原判決書二八枚目表三行目の「及び第四六七号証」を「、第三三七、第四六六、第四六七号証」と、同六行目冒頭の「七、第四六六号証」を「七号証」とそれぞれ改め、同三一枚目裏七行目の「主張するが、」から同三二枚目表二行目末尾までを「主張する。参加人組合・参加人支部及び訴外組合のいずれもが旧組合規約の定める組合脱退または除名の手続をとっていないことは、控訴人主張のとおりであり、本件においては、訴外組合が旧組合を承継したものであるのか、あるいは、参加人組合が旧組合を承継したものであるのか、または、組合の分裂という特別の法理を適用すべき希有の事例であるのかはにわかに決しがたいところがある。しかしながら、前記認定のとおり、参加人組合及び参加人支部は、訴外組合及び訴外支部とは別個独立の組合活動を行い、別個に執行部役員を選出し、組合規約を制定しているのであって、客観的にも労働者の団結体としての実体を有するに至ったものであることは十分認めることができる(形式的な法律論さえしなければ、常識で判断できることであろう。)から、その団結権は法律上当然保障されるべきものである。要するに、控訴人の団交拒否等の不当労働行為の成否が争われている本件においては、参加人組合及び参加人支部が客観的にみて現に実体として存在すると認められるか否かを問題とすれば足りるのであり、法律的に旧組合と参加人組合及び参加人支部とがいかなる関係にあるのかということは、本件訴訟の結論に影響がなく、判断する必要もない事柄であるといってよい。控訴人は、脱退または除名の手続がとられない以上、複数の組合は存在しえないと強調するけれども、右は労働組合としての存在が認められるかどうかを決する基準とするにふさわしいものではない。右手続の履践の有無は、当該組合員と旧組合あるいは両組合相互間の関係を検討するに際して問題となる事柄であり、右手続がとられていないからといって、現に存在する参加人組合や参加人支部の存在を否定することはできない。この理は、控訴人のように、旧組合との間でユニオン・ショップ制をとっている場合も、異なるところはない。したがって、」と改める。
7 原判決書三二枚目裏二行目の「受けたのであるから、同日」を「受けたものであり、しかも、前掲乙第三三六、第四六六号証及び成立に争いがない乙第四六四号証によれば、控訴人は、ネッスル労組の内部抗争に多大の関心を持ち、労務部が中心となって、組合機関紙を収集する等してその情報の収集に努めていたことが認められることも併せ考えると(ちなみに、控訴人は、原審において陳述した昭和六一年一二月五日付け準備書面(二)の二3において、参加人組合・訴外組合及び参加人支部・訴外支部からそれぞれの執行委員長就任について通知があった際、「組合規約、組合役員の選挙の経過・結果および、組合機関紙等を慎重に検討して、」訴外組合の真正な本部執行委員長は三浦一昭であり、訴外支部の執行委員長は遠藤芳行であるとの結論に達したと主張しているところである。)、右四月一三日」と改める。
8 原判決書三三枚目裏二行目の「解すべきである。」の次に「控訴人は、チェックオフは、組合が自己の組合費債権の取立を雇用主に委任するものであり、個々の組合員の同意は不要であって、組合員の個々の意思表示によりこれを排除することはできないと主張する。確かに、チェックオフにおいて、組合と雇用主との関係は取立委任契約と見るべきではあるけれども、それだけで法律効果を生ずるのではなく、組合員と雇用主との関係において、組合員から雇用主に対し支払を委任する契約が併存することによってはじめて三者間に法律効果が生ずるものと解すべきである。そして、チェックオフは、組合員個々の賃金請求権に関するものであって、労働組合法一六条の「労働条件その他の労働者の待遇に関する」ものということはできないから、組合と雇用主との間にチェックオフ協定があるからといって、いわゆる規範的効力によって組合員から雇用主に対する支払委任の効力を持つものとは解し難い。したがって、チェックオフのうち右支払委任の面では、組合員の個々の同意(もっとも、必ずしも明示的である必要はない。)が必要であり、また、個々の組合員は、特段の事情がない限りは、右同意をいつでも撤回することができるものと解すべきである(なお、労働基準法二四条一項但書の規定は、雇用主に対して免罰的効力(同法一二〇条一号の罪)を与えるものに過ぎず、右規定をもって、労働組合との間でチェックオフ協定がある場合に組合員がこれに拘束されるとの私法上の法律効果の根拠と解することができないのはいうまでもない。)。そこで、」を加える。
9 原判決書三四枚目表八行目の「させたものである。」の次に「同一企業内に複数の労働組合が併存する場合は、使用者は、各組合の団結権を平等に承認、尊重し、各組合に対して中立定立場を取るべき中立保持義務があるところ、前記認定のとおり、控訴人は頑なに参加人組合及び参加人支部の存在を否定してきていて、団交にも一切応ぜず、団交を要求する書面も参加人組合等に送り返すという態度を取り続けてきたこと、チェックオフについても、参加人組合及び参加人支部において、度々控訴人に対しチェックオフの中止を申し入れ、昭和五八年九月には、参加人支部に所属するという組合員自身も、それぞれ三浦一昭を代表者とする組合の組合員ではないから直ちにチェックオフを中止するよう控訴人に対し書面で申し入れをしたにもかかわらず、これらの申し入れを無視し、あえて右のように参加人組合所属の組合員であると主張する組合員から組合費相当額を控除し、しかも右組合費を供託する等の手続をとることもなく、参加人支部と対立的立場にある訴外支部に引き渡していること等前記認定の諸事実を考え併せると、」を加え、同末行の「ものであるといわざる」を「意図のもとに行われたものと推認せざる」と改める。
10 原判決書三四枚目裏五行目の「参加人支部に」の次に「、しかも、年五分の割合による金員を付して」を加え、同三五枚目表七行目の「事実関係のもとで、」を「事実関係のもとにおいては、右組合費相当額を参加人支部へ一括交付することを命じた救済措置が労働委員会に認められた裁量権を逸脱したものとはいえないし、年五分の割合による金員を付加した点についても、経済的な等価を実現するための回復手段の範囲を超えるものではないと認めることができるのであって、」と改め、同行の末尾に「なお、本件救済命令は、控訴人に対し、過去の組合費相当額とこれに対する年五分の割合による金員の支払いを命じたのみで、今後参加人支部のためにチェックオフをすべきことを命じたものではないから、労働基準法二四条一項但書に違反するものでないことはいうまでもない。」を加える。
二以上のとおりであって、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条、九四条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官上谷清 裁判官満田明彦 裁判官亀川清長)